先生向け
算数の個に応じた指導
個に応じた指導とは、クラスのどの子も、その授業で確かに学べるようにすることです。むずかしいと感じている子には必要な支えを、もう理解できている子にはもっと考えがいのある課題を用意します。以前は、早く終わった子にプリントを追加し、時間が足りない子には残りを宿題にする、という形になりがちでした。いまは、クラス全員が同じ内容に取り組み、その1つの授業の中に支援と発展を組み込む授業づくりが大切にされています。2021年の中央教育審議会の答申で示された「個別最適な学び」と「協働的な学び」も、この考え方の延長にあります。このガイドでは、明日の算数の授業から取り入れられる工夫を紹介します。
学習指導要領の考え方
小学校学習指導要領(2017年告示)は、総則の「児童の発達の支援」の中で、「個別学習やグループ別学習、繰り返し学習、学習内容の習熟の程度に応じた学習」や「補充的な学習や発展的な学習」を取り入れ、「教師間の協力による指導体制」を確保するなどして、個に応じた指導の充実を図るよう求めています。習熟度別指導、少人数指導、ティーム・ティーチング(TT)は、このための代表的な方法です。どれを取り入れるか、何年生で行うかは、学校や自治体によって違います。
また、算数を含む各教科の「指導計画の作成と内容の取扱い」には、「障害のある児童などについては、学習活動を行う場合に生じる困難さに応じた指導内容や指導方法の工夫を計画的、組織的に行うこと」と書かれています。特別な支援が必要な子どもへの配慮は、学級担任一人の工夫ではなく、学校全体で計画的に取り組むものだということです。
クラス全員で同じ課題に取り組む
基本になるのは、クラス全体がおおむね同じペースで単元を進むことです。早く理解した子は次の単元に先に進むのではなく、同じ内容をもっと深く考える問題に取り組みます。まだ身についていない子は、先に進む前に練習を重ねます。めあて、自力解決、話し合い、まとめという問題解決型の授業の流れは、もともとこの考え方と相性がよいものです。授業の中では、次のような形になります。
- 全員に共通の課題。たとえば2年生の「2けたのたし算の筆算」なら、クラス全員が同じ課題に取り組みます。違うのは、それぞれが受ける支えの量です。
- 小さなステップ。新しい内容は小さな段階に分け、ミニホワイトボードやノートを見せてもらいながら、一つひとつ確かめてから次に進みます。
- 自力解決の時間の机間指導。手が止まっている子にはヒントを出し、もうできた子には「別の方法でもできるかな」と声をかけます。ここで見取った考えは、話し合いでだれに発表してもらうかを決めるのにも役立ちます。
- その日のうちのフォロー。授業でつまずいた何人かとは、休み時間の終わりや帰りの会の前などに数分でも確かめておくと、翌日の授業に同じスタートラインで臨めます。
- 速さより深さ。早く終わった子には、来週の内容ではなく、同じ内容についてもっと考える問題を渡します。
具体物から図へ、図から式へ
日本の算数の授業では、新しい内容を「具体物 → 図 → 数と式」の順に扱うことが多くあります。まず実際に物を動かし、次に図にかき、最後に数と記号で考えます。教室で役に立つ道具には、次のようなものがあります。
- 算数セットのブロックとおはじき:10までの数、「いくつといくつ」、さくらんぼ計算の考え方に。
- 数え棒と10のまとまり:10本ずつ束ねて、位取りやくり上がり・くり下がりの意味を確かめるのに。
- 位取り表:筆算で、どの位の数を動かしているのかを目で見て確かめるのに。
- 数直線と100玉そろばん:数の大きさや並び、何十といくつの計算に。
- テープ図・線分図:文章題で、全体と部分、何倍かの関係をつかむのに。
- 紙のテープや折り紙:折って½や¼をつくり、分数の大きさを比べるのに。
具体物は、苦手な子のためのものとは限りません。筆算がすらすらできる子に、52 − 27 をブロックで見せてもらいましょう。ばらの2こからは7こをとれないので、10のまとまりを1本ばらして、10のまとまりが4本とばらが12こにします。そこから10のまとまりを2本とばらを7ことると、10のまとまりが2本とばらが5こ、つまり25が残ります。このとき、筆算の手順は言えても、くり下がりの1が何を表しているのかは説明できない、という子が意外に多いことに気づくはずです。
同じ道具を、すべての机に、毎時間置いておきましょう。そして、先生自身も説明するときに使ってください。ブロックや位取り表を使って考えることがクラスの当たり前になれば、いちばん必要としている子も、まわりの目を気にせず手に取れるようになります。
だれでも始められて、深く考えられる問題
どの子も取りかかれるのに、考えはどこまでも深められる問題があります。答えや解き方が1つに決まらない問題は「オープンエンドの問題」と呼ばれ、日本の算数教育でも長く研究されてきました。クラス全員が同じ問題に取り組み、一人ひとりが自然にそれぞれの深さまで進めます。
- 低学年:「たして10になる2つの数を見つけよう」。どの子も1組は見つけられます。全部見つけられるかな。全部見つけたと、どうしてわかるのかな。(1と9、2と8…のように順番に並べると、もれなく見つけられます。)3つの数なら、どうかな。
- 中学年:「2つの数をたすと20、ひくと4になる数は何と何?」。見当をつけて確かめていけば、12と8が見つかります。では、和が30で差が6なら?(18と12です。)いつでも使える方法はあるかな。和から差をひいて2でわると、小さいほうの数になります。たとえば(30 − 6) ÷ 2 = 12、12 + 6 = 18です。テープ図をかくと、なぜこの方法でうまくいくのかが見えてきます。
- 高学年:「1から20までの数のうち、2 + 3 のように、続いた2つ以上の整数の和で表せるのはどれ?(0は使いません)」。たとえば、9 = 4 + 5 = 2 + 3 + 4 です。どの子もいくつかは見つけられます。深く考えた子は、1、2、4、8、16はどうしても表せないこと、そしてどれも前の数の2倍になっていることに気づきます。
少しずつ外していく支え
子どもが一人ではまだできないことを、できるように手助けする一時的な支えを「足場かけ(スキャフォールディング)」と言います。目標は、いつか外すことです。算数で使いやすい支えには、次のようなものがあります。
- ヒントカード:「ブロックで考えてみよう」「図にかいてみよう」のように段階を分けたカードを用意し、子どもが自分で取りに行けるようにします。
- 黒板に残しておく例題:手順ごとに番号や言葉をそえて、練習問題の横に残しておきます。
- テープ図入りのプリント:最初の1問だけ、テープ図をかいておきます。
- 手元に置く九九表や数直線:筆算の手順を練習しているときに、九九を思い出すところで止まらないようにします。
- 説明の話型:「〜だから、〜です」「まず〜、次に〜」のような言い方を示しておきます。
- 問題数をしぼる:「半分までやろう」と前から区切るのではなく、大事な問題を選んでおきます。
どの支えも、いつ外すのかを先に決めておきましょう。3問解いたら、ノートで確かめたら、次の時間から、などです。そうしないと、いつまでも支えに頼ったまま進むことになりがちです。
習熟度別指導・少人数指導・1人1台端末
算数の時間に、学級を分けて少人数指導や習熟度別指導を行う学校もあります。その場合も、グループは固定しないことが大切です。分数でつまずいている子が、図形の単元ではだれより生き生きしていることはよくあります。単元ごとにグループを見直し、子どもが自分でコースを選べるようにしている学校もあります。TTで先生が2人いる授業では、一人が全体を進め、もう一人が自力解決の時間に机間指導をする、という分担がよく見られます。
1人1台端末のドリル教材は、九九や計算を自分のペースで練習するのに役立ちます。ただ、端末で一人ずつ進める時間が、考えを伝え合う時間に取って代わらないようにしましょう。個別最適な学びと協働的な学びは、どちらか一方ではなく、組み合わせて生きてくるものです。
特別な支援が必要な子どもたちと
特別支援学級の子どもが交流学級で算数の授業を受けたり、通級指導教室に通う子どもがクラスにいたりすることは、いまではめずらしくありません。特別支援学級や通級による指導を受けている子どもには個別の指導計画があるので、その目標を特別支援学級の担任や通級の先生、特別支援教育コーディネーターと共有しておきましょう。単元計画を前もって渡しておけば、その子に合った具体物やプリントを準備してもらえます。
できるだけ、クラスと同じ課題を軸にするのが理想です。クラスがくり下がりのあるひき算の筆算をしているなら、その子も同じひき算に、ブロックや位取り表を使って取り組みます。別の単元のプリントを渡すのとは、学びのつながりがまったく違ってきます。
「授業のユニバーサルデザイン」と呼ばれる工夫は、どの子にとってもわかりやすい授業につながります。1時間でねらうことを1つにしぼる、授業の流れを黒板の端に示しておく、大事なことを図や具体物で見えるようにする、ペアやクラスで考えを共有する。特別な支援が必要な子のための工夫が、クラス全員の助けになることは少なくありません。
チャレンジカード
チャレンジカードは、いま学んでいる内容をより深く考えるためのものです。どの単元でも使える問いかけをいくつかカードに書いておき、授業に合うものを選んで使います。
- 例を1つ挙げよう。次に、ほかの人が思いつかないような例を挙げよう。
- 答えが36になる問題をつくろう。次は、もっとむずかしい問題をつくろう。
- それはいつでも正しい?ときどき正しい?いつでも正しくない?わけを説明しよう。
- 考えられる場合を全部見つけよう。全部見つけたと、どうしてわかるかな。
- この答えのまちがいを見つけて、説明しよう。
たとえば、2年生の2けたのたし算の筆算の授業なら、「2、3、4、5の4つの数字を1回ずつ使って2けたの数を2つつくり、たし算をします。和がいちばん大きくなるのは?いちばん小さくなるのは?」。いちばん大きい和は95(たとえば53 + 42)で、5と4を十の位に置く必要があります。いちばん小さい和は59(たとえば24 + 35)で、2と3を十の位に置きます。十の位に置く数字が同じなら、どう組み合わせても和は変わらないことに気づいた子は、計算するにとどまらず、位取りについて考えています。
早く終わった子への発展問題
早く終わった子への課題は、同じ問題の追加ではなく、取り組む価値のあるものにしたいものです。パズルは、計算の練習をしながら考える力も使うので、ぴったりです。
- ハニカムパズル。Beequationのハニカムでは、どれか1つの数が、ほかの2つの数の和(または積)になっていて、それを見つけます。先生向けの無料パズルパックには、20までのたし算と九九のハニカムパズルが解答つきで入っているので、子どもが自分で答え合わせできます。(パックは英語版ですが、パズルは数字で解くものなので、そのまま使えます。)
- 自分でつくる。早く終わった子に、友だちのためのハニカムをつくってもらいましょう。ほかの2つの数からできる数がちょうど1つになるようにします。ほかの組み合わせでは成り立たないことを確かめる作業は、もれなく調べる力の練習になります。
- ブラウザ版のゲーム。教室のパソコンやタブレットで、ブラウザ版のBeequationを遊べます。登録は不要で、毎回新しいパズルが出てきます。
よくある質問
学校の方針によりますが、どの形をとるにしても、グループは固定せず柔軟に見直すことが大切です。同じクラスで学ぶ場合も、その時間に支えが必要な子に、必要な分の手を差しのべられるようにしておきましょう。分数が苦手な子が、長さやかさの単元ではだれよりも得意ということもあります。
同じ内容をもっと深く考える課題です。チャレンジカード、オープンエンドの問題、パズルなどがよいでしょう。同じ種類の問題を追加で渡すのは避けたいところです。早く終わったことへの罰のように感じてしまう子もいます。
具体物を使い、できるだけクラスと同じ課題を軸にしながら、身についていない基本の計算(いくつといくつ、九九など)を短い時間でくり返し練習します。特別支援教育コーディネーターや学年の先生方とも相談してください。前の学年のガイドを見ると、どこでつまずいているのかを見つける手がかりになります。
そんなことはありません。分数のテープ、立体の模型、新聞紙でつくった1 m²の正方形など、高学年でも具体物は大活躍します。先生自身が説明に使えば、子どもたちもおもちゃではなく、考えるための道具として受け止めるようになります。
インディと練習しよう
Beequation Kidsでは、計算の練習がハニカムパズルになります。お子さまがつまずいたときは、ミツバチのインディがヒントを出します。広告なし、データ収集なし。